逃げ惑う=その男を表現するのに最も相応しい言葉だ。
その姿は滑稽極まりなくそしてさぞかし無様なことこの上ないであろう。現実に対峙するのが恐怖な訳でつまりは敗北者。破滅思考の敗北者。自らのバイオリズムで眠りにつく事すらままならなくなった敗北者は夜な夜な更なる破滅的シナリオを綴り上げる。脱け出す術は限りなく無に等しい負のスパイラル。
精神のリハビリと称しても過言ではない毎日2時間弱にも及ぶ理解者との電話の中で幼い頃の親父との触れ合いの一コマを思い出し涙と笑みがほぼ同時にこみ上げる。今日一日の中で唯一生きた人間らしいエピソード。
もうそろそろ空が白み始める時間だな。
男は偽りで紡いだ上着を羽織り
欺きという名の靴紐を結んで
重い扉を開く。
TAGUCHI