それまでやりたくないことを無理強いされてやらされてきた
覚えたくない事を覚えさせられ
走りたくないのに走らされ
興味あることを奪われ
走りたいのに歩かされ
それでもそれほど大した情熱もなく
されるがままの生い立ちだった
そんな時に出逢えた
はじめて心底やりたいと思った
はじめて誰かに負けたくないって想えた
同じような波長だったに違いない2人
長屋暮らしのイルカと中学生なのにアパートで一人暮らしのガキ
狂気に満ち溢れたパンクロック
俺達は生まれ変われると確信した
それまでの燻った冴えない人生に終止符を打ち
カミソリの刃の如く研ぎ澄まされた
他者を寄せ付ける余地の無いテロリスト
永い夢を見ていたのか
一瞬の瞬きに過ぎないのか
目の前の色白の筋肉質にショートヘアの中年女性
イルカの母親が押し入れを漁り探し出した明星の付録の歌本を畳に叩きつけ言い放った
「そんなワケわからない歌やめてこれ演りなさい!おばさん歌ってあげるから!」
イルカの母親が誇らしげに示した頁に視野のすべてをやった
杉田かおるの「鳥の詩」
そこからの記憶は途切れ途切れしかない
「あなたがいーたーこーろーはー
笑いさざーめーきー」
微塵も笑いさざめかない俺達3人の演奏を前に
イルカの母親は
色白の筋肉質にショートヘアの中年女性は高らかに歌いあげた
両手を胸の前に組み
ソプラノ歌手のように
「鳥よー鳥よー鳥たちよー」
現在では解る
人生ってやつは自分の力ではどうにもならない事がある
やりたくない事も生きるためにはやらざるを得ない
挫折や絶望を繰り返し
したたかに生きる術を手に入れた
中学を卒業後
ガキは消息不明
イルカは公立高校に進学しその後は消息不明
そして俺は
こうしてブログを書いてる
したたかに生き延びながら
終
TAGUCHI